大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

札幌高等裁判所 昭和41年(ラ)46号 決定 1966年12月05日

抗告人 芝山貞(仮名)

相手方 芝山良造(仮名)

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

抗告代理人は「原決定を取り消す。抗告人の相手方に対する原決定添付債権目録記載の債権の執行を保全するため、相手方所有の同添付物件目録記載の土地を仮りに差押える」との裁判を求めた。その事実上、法律上の主張は原決定記載のとおりであるから、これを引用する。

当裁判所も、本件仮差押の申請は失当と判断するものであつて、その理由は、左の点を補充するほかは、原決定の理由と同一であるからこれを引用する。

本件申請が民事訴訟法第七三七条による仮差押を求めるものであることは、申請の趣旨並びに理由に徴し明らかである。ところで、民事訴訟法上の仮差押手続は、それによつて保全される本案請求権が、同法の通常訴訟手続によつて確定されるべき性質のものについて認められるものであると解すべきである。然るに、本件仮差押申請によつて保全せんとする請求権は、申請の趣旨並びに理由によれば、民法第七六〇条の規定による婚姻費用の分担請求権に基く将来に亘る金員支払請求権であることが明らかである。しかしながら同条に基き夫婦の一方が他方に対し将来に亘つて負担すべき婚姻費用の程度ないしその範囲の確定は、裁判所法第三一条の三第一項第一号、家事審判法第九条第一項乙類第三号により、専ら家庭裁判所が家事審判法の手続によつてする審判によつてのみこれをなし得るものであつて、民事訴訟法による通常訴訟手続によりこれを確定する途はない。従つてその審判の確定前にかかる請求を本案として民事訴訟法上の仮差押を求めることは許されないものといわなければならない。尤もこのように解するときは、本件の如き請求については、家事審判手続上も保全措置を講ずるの途がなく、民法第七五二条の夫婦間の協力扶助に関する請求を本案とする場合に審判前の保全措置を求め得る(家事審判規則第四六条)のと対比して権衡を失することにはなるが、その一事をもつて、婚姻費用分担の請求を通常民事訴訟手続により確定し得る性質のものと解したり、または、この場合にだけ家事審判手続を本案訴訟と看做して民事訴訟法上の仮差押をなし得るものと解することはとうていできない。

よつて、本件申請を却下した原決定は相当であり、本件抗告は理由がないのでこれを棄却することとし、抗告費用につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 杉山孝 裁判官 今富滋 裁判官 潮久郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例